「旅行者心理学」
平田裕一の顔です
平田裕一
 最近、拠点都市構想という言葉をよく耳にするが、会津を盆地の外側から見れば、完全に観光地である。観光地ではあるが、なにか抜けている気がしてならない。
 私は旅館の仕事をする前に、東京の旅行会社に籍を置いていたが、旅行者の心理には、大変驚かされたものだ。その土地で何がお土産になるのか、その見学場所でトイレはどこにあるのか、カメラは持っていった方がよいのか、などなどである。この案内がちょっとでもタイミングや内容がずれると、言い訳にしか聞こえないから大変である。それが一生のうちに一度しかいけないかもしれない海外旅行になればもっと大変である。添乗員であれば何回も見れる景色も、旅行者にしてみれば大切な一瞬である。
 たとえばスイスのマッターホルンに登って、少し雲がかかっていたとしても「何回か来たが、今日は情緒がある」とか「涼しくて気持ちがいい」という添乗員の言葉を、旅行者は喜ぶだろうが、「去年私が来たときは晴天で、向こうの尾根まで見えたんですがねー」などという言葉は、がっかりさせるものであろう。でも人間どうしても自慢したくなるもので、つい言ってしまったりしている。案内のつもりが、仕事を忘れて自己満足や言い訳になってしまっているのである。
 会津の観光に携わる人々は、そのような言葉が多すぎないだろうか。(私もあらためて気をつけよう)私は旅行会社の添乗員教育の中で、観光業にたずさわる者にとって、一番大切なことは「感動する心」とたたき込まれてきた。旅行者と同時に、自然の美しさに感動し、歴史の重さに感動し、人々の文化に感動することである。旅行者と同じ立場に立って、ものを見て感じる心を忘れてしまったら観光業に向上はないだろう。
 今後、会津の町は拠点都市構想によって変わりつつあっても、観光地であることには変わりはないだろう。その時、自分の住む町に対して毎日「感動する心」を持つ人がどれだけいるだろうか。「感動する心」がなければ旅行者がなにを望んでいるかなどわからないだろう。
 今、冬の会津観光に一番必要とされているのは、もしかしたら、駅前レンタル長靴かもしれない。
あいづタウン情報「VOICE!」1996年01月27日掲載
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1996年・旅行者心理学
1997年・まだ計算中です| 昔からそうだから| つまらないものですが
1998年・新・路地裏紀行| あこがれ| 今、ちょっと忙しくて
1998年・あったか電子メール
2000年・精神ダイエット
2008年・真冬の庭に花を咲かせる